行政書士の業務停止処分とその影響: 県知事と行政書士の訴訟

行政書士が一定期間の業務停止処分を受ける事例は、行政書士法に基づく懲戒処分として稀に発生します。
しかし、その処分の理由や影響については、業界外ではあまり知られていません。
今回は、ある行政書士が受けた業務停止処分と、その処分を巡る訴訟の背景について、興味深い判例に基づいて解説します。
【判例  東京高等裁判所  平成19年8月29日

事件の背景

2005年3月31日、千葉県知事は、ある行政書士に対して、行政書士法第14条に基づく業務停止処分を下しました。この処分は、同年4月8日から5月7日までの30日間の業務停止を命じるものでした。行政書士は、この期間中、自らの業務を一切行えない状態に置かれることになります。業務停止処分は3種類ある懲戒処分のうち、2番目に重い処分です。

(行政書士に対する懲戒)
第14条
行政書士が、この法律若しくはこれに基づく命令、規則その他都道府県知事の処分に違反したとき又は行政書士たるにふさわしくない重大な非行があつたときは、都道府県知事は、当該行政書士に対し、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の停止
三 業務の禁止

行政書士法

業務停止の理由

知事は、行政書士の業務において、行政書士法に違反する行為があったと判断しました。具体的には、当該行政書士が法の規定する範囲を超えた業務を行っていたり、行政書士の職務にふさわしくない行為をしていたとされます。

訴訟の提起

当該行政書士は、処分に対して異議を唱え、訴訟を起こしました。当該行政書士は、自らの行為が法に反するものではなく、また、処分の期間が過度に長いことも含め、処分の妥当性を否定しました。彼は裁判所に対し、業務停止処分の取り消しを求めました。

原判決での判断

一審の地方裁判所では、当該行政書士の訴えは棄却されました。裁判所は、知事の処分が適法であり法に基づき正当な理由で行われたものと判断しました。

控訴審での争い

当該行政書士は、この原判決に不服を申し立てて控訴しました。彼は、地方裁判所の判断を覆し、業務停止処分の取り消しを求めて争いました。控訴審では、再度この処分の適法性が精査され、当該行政書士の行為が行政書士法に違反するものであったかどうか、また処分の適用が適正かどうかが問われました。

結論

控訴審の結果、東京高等裁判所は控訴人である行政書士の訴えを却下しました。裁判所は、業務停止期間が既に終了しているため訴訟利益が消滅したと判断しました。行政書士は処分の取り消しによって資格を回復できると主張しましたが、裁判所は処分の取り消しだけでは資格の回復には直接繋がらないと認定しました。

裁判所の判断した事項

東京高等裁判所は、以下の理由から行政書士の訴えを却下しました。

  1. 業務停止期間の経過: 業務停止処分の期間が既に過ぎており、訴訟を進めることによる具体的な利益が消失していると判断されました。
  2. 資格回復の主張の否定: 行政書士は、処分によって資格を失ったことに対する不利益を訴えましたが、裁判所は、業務停止処分の取り消しによって資格が直ちに回復するわけではないと判断しました。
  3. 法律上の利益の欠如: 業務停止期間が経過した後の状況では、処分を取り消しても行政書士の法律上の利益が回復されるとは限らないとし、訴えの利益が不足していると判断されました。

まとめ

本件は、行政書士が受けた業務停止処分と、それに対する訴えが裁判所でどのように判断されたかを示す重要な判例です。行政書士の業務停止処分は、法律に基づく適切な手続きで行われることが必要です。また、処分に異議がある場合は、法律上の利益が認められる範囲内でのみ訴えが提起できるという点も示しています。

最後に

今回は行政書士の業務停止処分に関する判例について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が行政法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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