公務員の職場内暴行とその懲戒処分の適法性について解説

職場での対人関係は、時に複雑で緊張が走ることがあります。公務員の場合、その行動にはさらに厳しい目が光ります。
特に暴行や威嚇などの行為は、その職務に相応しくないものと見なされ、重い懲戒処分の対象となることがあります。しかし、このような処分が常に適切であるとは限らないのです。
今回は、最高裁判所第三小法廷による2022年6月14日の判決を通して、公務員懲戒処分の適法性とその裁量の限界について解説します。

事件の背景

この事件の中心人物は、氷見市消防職員として採用されたA氏です。A氏は職場で複数の暴行事件を起こし、上司や部下不適切な行動が認められました。具体的には、上司や部下に対する怒鳴りつけや、暴力を伴う行為などが繰り返されました。これにより、A氏は停職2か月の懲戒処分を受けますが、この処分期間中にさらに問題の行動をとりました。

A氏の問題行動は、彼が氷見市消防職員として勤務していた数年間にわたり発生しています。以下は、彼の行動の詳細とそれに対する対応を時系列で追ってみましょう。

初期の問題行動

  • 平成23年7月22日
    A氏は消防長であるB氏に対して、公然と怒鳴り散らし「お前みたいな奴、早く消防長辞めてしまえ」と発言しました。これは明らかに尊敬と服従を欠いた行為で、職場の秩序を乱すものでした。
  • 平成25年5月〜6月
    A氏は消防署内で上司のC氏に対し、大声で一方的に怒鳴りつけました。さらにはC氏の胸倉を掴んで壁に押し付ける暴力をふるいました。
  • 平成25年6月10日
    救助訓練中に部下のD氏を注意した後、D氏の態度に腹を立てを蹴ろうとしました。これにより、D氏の左手小指に軽傷を負わせました。

暴行とその影響

  • 平成26年1月
    A氏は別の部下E氏に対して暴行を加え「何や、お前その手は、反抗的やの」と威圧的に述べた後、平手でE氏の頬を殴打しました。この一連の行動は、E氏に心的外傷後ストレス障害を引き起こす原因となりました。
  • 平成26年6月
    A氏は上司のF氏に対しても胸倉をつかみ、「殴ってやろうか」と脅迫しました。この行為は、上司に対する暴力的な意図を示すものでした。

継続する問題行動

  • 平成28年3月〜10月
    A氏は再び消防長G氏に対して暴言を吐き「お前みたいな奴、早く辞めてしまえ」と言いました。また、同年10月には、別の上司H氏に対しても大声で怒鳴りつけました。、その場を離れても約10分間にわたって「バカ」「アホ」といった侮辱的な言葉を浴びせ続けました。

懲戒処分へ

これらの行為が積み重なった結果、A氏は地方公務員法第29条1項1号に基づき2ヶ月の停職処分を受けます。しかし、この処分期間中にもA氏は問題行動を止めませんでした。彼は、既に処分を受けているにも関わらず、暴行の被害者である部下や知り合いに対してさらに不適切な圧力をかける行動に出ています。これにより、さらなる6ヶ月の停職処分が科されることとなりました。

懲戒処分の詳細と法的根拠

A氏は、停職処分中にも関わらず、暴行の被害者の一人である部下C氏や、その同僚H氏に対して不適切な働きかけを行いました。これは、彼らに不利な情報を掴んで報復する可能性を示唆するもので、さらなる停職6か月の懲戒処分につながりました。この処分は地方公務員法第29条1項に基づくもので、職員が法律等に違反した場合に戒告、減給、停職または免職の処分を行うことができると規定されています。

法的論点と判決

原審では、第2の懲戒処分が社会通念上著しく妥当を欠くと判断されました。
しかし、最高裁はこの判断を覆しました。最高裁は、A氏の行為が懲戒の制度の適正な運用を妨げ、審査請求手続の公正を害するものであり、全体の奉仕者たるに相応しくない非行に該当すると評価しました。したがって、懲戒権者が与えられた裁量権の範囲を逸脱したとはいえないと結論づけました。

まとめ

この判決は、公務員の行動基準と懲戒処分の裁量に関する重要な示唆を提供します。職場での行動は、その職の性質上、常に高い倫理基準に照らして評価されるべきですが、その処分が常に適切かどうかは、具体的な事実や法的枠組みによって異なります。公務員に対する公正かつ適切な評価と処分が求められることが、この判例からも明らかです。

最後に

今回はパワハラに基づく公務員の分限免職処分の適法性について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が行政法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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