裁決を裁決庁が自ら取消した違法と取消処分の効力

行政庁の意思決定においては、適切な裁決が求められます。しかし、場合によっては行政庁自らが下した裁決を取消すことがあります。
そのようなケースで、取消処分の効力が問われることも少なくありません。
今回は、裁決を裁決庁が自ら取消した違法と取消処分の効力について解説します。
【判例  最高裁判所第三小法廷 昭和30年12月26日

事件の背景

事件の概要は、XとYの間で農地の賃借権に関する争いが生じたことから始まります。村農地委員会は、農地調整法に基づいてXの賃借権設定を認める裁決を言い渡しました。
Yは不服を申し立て、上級機関である県農地委員会に訴願を提出しました。県農地委員会はこの訴願に対し棄却の裁決を下し、村農地委員会の裁定を支持しました。

その後、Yが県農地委員会に裁決に対する再議を求めました。結果として県農地委員会はYの主張を認め、村農地委員会の賃借権設定の裁決を取消しました。

これに対して、XはYを被告として、本件農地に対する自身の耕作権の確認および農地の引渡を求めて訴訟を提起しました。
この裁判において、県農地委員会が一度下した裁決を自ら取消し、異なる裁決を行ったことの違法性と効力が争点となりました。

違法判断の経緯

この裁判では「訴願裁決庁がその裁決を自ら取消すことが違法な場合であっても、その違法は、取消処分を当然無効ならしめるものではない」という判決が出されています。また、行政処分の違法性が重大で明白であって当然無効とされる場合を除いては、適法に取消されない限り効力を持つと判断されました。

本事件の場合、県農地委員会が行った裁決取消は確かに違法でしたが、重大かつ明白な違法とは言えず、取消されない限りその効力が有効であるとしました。

まとめ

本事件を通して、行政庁が自身の裁決を取消すことの難しさと、その取消処分の効力について学ぶことができます。
裁決を裁決庁が自ら取消した場合、違法であることが明白で重大な場合を除き、取消されない限り裁決の効力は有効であるという裁判所の判断は、今後の行政判断にも影響を与えるものです。

最後に

今回は裁決を裁決庁が自ら取消した場合の違法性の判断について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が行政法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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