行政書士の果たさなければならない義務│法的義務解説 その2

行政書士には、果たさなければならない職務上の法的義務が存在します。
これらの義務を果たさなかった場合、懲戒を受ける可能性もあります。
今回は、前回から引き続き、行政書士の義務について解説します。
【前回の記事】
行政書士の果たさなければならない義務│法的義務解説 その1 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

報酬額の掲示義務

報酬額の掲示義務については、法令上、以下のように定められています。

(報酬の額の掲示等)
第10条の2 行政書士は、その事務所の見やすい場所に、その業務に関し受ける報酬の額を掲示しなければならない。
2 行政書士会及び日本行政書士会連合会は、依頼者の選択及び行政書士の業務の利便に資するため、行政書士がその業務に関し受ける報酬の額について、統計を作成し、これを公表するよう努めなければならない。

行政書士法

行政書士の報酬と独占禁止法の原則について、興味深い問題が存在します。平成11年の改正以前は、独占禁止法の規定は1項のみでした。しかし、その後、2項が新設されました。これにより、行政書士の報酬に関する規定が自治大臣の認可を受けた日本行政書士連合会(日行連)の会則に組み込まれました。また、都道府県知事の認可を受けた各行政書士会の会則にも報酬規定が設けられました。

しかし、日行連や各行政書士会が事業者団体と見なされ、独占禁止法に基づく価格競争制限の禁止原則との関係が問題視されるようになりました。独占禁止法は、事業者団体による競争制限行為を禁止しており、特に最低価格や確定価格を決めることは違法な価格カルテルに該当します。

このため、行政書士会が標準報酬を確定額として指導したり、「不当割引」を禁止したりすることは独占禁止法違反とされました。また、行政認可を受けた標準報酬は、業務1件当りの基準報酬額表として認可されていない場合もあります。

つまり、行政書士の報酬に関する規定は、独占禁止法の枠組みの下で慎重に考える必要があります。

報酬掲示義務に関する時代の変遷

報酬の最高限度額を定めることが消費者に有利であり、独禁法に反しない筈でした。しかし、かつての最高報酬額の規定は、昭和60年の改正で廃止されました。

平成10年3月、規制緩和推進の閣議決定において、日本行政書士連合会(以下、日行連)と行政書士会の会則上の報酬規定を廃止する方針が示されました。これに反発した行政書士団体や個々の行政書士は、依頼者への報酬根拠の説明が難しくなることを懸念しました。

しかし、平成11年2月の「行政書士制度のあり方に関する懇談会」の報告書では、「独禁法の趣旨に反しないよう留意しつつ、報酬について行政書士会及び日本行政書士会連合会が情報提供を行うよう努める」との規定が提案されました。結果的に、独禁法の競争制限禁止原則の影響で、規制緩和の時代に日行連と行政書士会の会則上の報酬規定は廃止され、代わりに報酬統計の公表権限が設けられました。

報酬統計調査の実施と公表

2000年の行政書士法改正により、行政書士の報酬は自由設定方式に移行しました。しかし、行政書士団体は、依頼者と行政書士の両方にとって利便性のある報酬適正化策を求め、報酬統計の作成・公表を行うことが新たな規定として盛り込まれました。

日行連は報酬統計調査規則に基づき、2年ごとに無作為抽出された会員から調査票を回収し、その結果を各種業務ごとに報酬金額の平均・最小・最大・最頻値を一覧表として公表しています。
報酬額の統計 | 日本行政書士会連合会 (gyosei.or.jp)

21世紀の「まちの法律家」としての行政書士業の適正な報酬設定について、今後も制度的な検討が進むことが望ましく、報酬統計の取り扱いには行政書士団体に裁量の余地があると理解されます。また、各都道府県の行政書士会は、地域ごとの業務の特性を考慮し、地域的な統計方法を工夫する権限を持っていると考えられます。

秘密保持義務

秘密保持義務については、法令上、以下のように定められています。

(秘密を守る義務)
第12条 行政書士は、正当な理由がなく、 その業務上取り扱った 事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。 行政書士でなくなった後も、また同様とする。

【関係条項】
第22条 第12条又は第19条の3の規定に違反した者は、1年以下の懲役また は100万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
第19条の3 行政書士又は行政書士法人の使用人その他の従業者は、正当な 理由がなく、その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らして はならない。使用人その他の従業者でなくなった後も、また同様とする。

行政書士法

行政書士の業務秘密保持義務の重要性

行政書士としての業務において、極めて重要な役割を果たすのが業務秘密の保持です。本条によれば、「正当な理由がなく、業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならない」と明記されています。この条文は、刑法の医師や弁護士の秘密漏示罪とほぼ同様の規定です。しかし、罰則は行政書士に対してより厳しいものとなっています。指定試験機関役職員の場合よりも重い罰則が課せられます(20条の2)。
※医師・弁護士は懲役6月以下、罰金100万円以下に対し、行政書士は懲役1年以下または罰金100万円以下

業務秘密の漏洩は、犯罪処罰だけでなく、行政書士としての信用を失い、業務禁止処分を受ける可能性があります(法14条1項)。行政書士が業務を終了した後でも、業務秘密の保持義務は残ります。

行政書士の業務秘密保持義務は、専門士業の法制度における重要な一環です。しかし、弁護士や税理士、社会保険労務士と同様に、行政書士が依頼者の重要な秘密情報にアクセスしやすいため、違反罰則は他の士業よりもやや厳しいものとなっています。

使用人行政書士等への監督義務

一方で、行政書士事務所の従業者や使用人にも業務秘密保持義務が課せられています。最近の法改正では、この点に重点が置かれ、罰則も規定されています。従業者の業務秘密違反が行政書士の指示に基づく場合、行政書士自身も罰せられる可能性があります。
行政書士が補助者を指導監督する際の注意義務について、東京都行政書士会の会則施行規則16条2項には興味深い規定があります。「会員は、補助者を指導監督する注意義務を怠ったため、補助者が依頼人に損害を与えたときは、その責を負わなければならない」というものです。

この規定は、行政書士が補助者を適切に指導監督することの重要性を示しています。行政書士は業務を遂行する上で、補助者を活用することができます。その補助者が不注意や過失によって依頼人に損害を与えた場合、行政書士自身もその責任を負うことになります。

この規定は、行政書士が業務を円滑に進めるためだけでなく、依頼人の信頼を守るためにも重要です。行政書士は、補助者の指導監督を通じて、依頼人の利益を最大限に保護する責任を負っています。

業務秘密の保持は、行政書士としての信頼を築き、専門家としての地位を守るために不可欠です。

行政書士の「業務上の秘密情報」の定義について

行政書士としての業務上、扱う情報は機密性の高いものが多いです。
東京都行政書士会の規則によれば、「業務上取り扱った事項について知り得た秘密」を漏らしてはならないとされています。しかし、この規定は公務員の守秘義務とは異なり、より広い範囲の秘密情報に関わることになります。行政書士の業務は個人や法人の重要な情報に接する機会が多いため、特に注意が必要です。

個人の秘密情報には、遺産分割協議書や身元保証書、社員履歴調書などのプライバシーに関わる個人情報が含まれます。一方、法人の秘密情報には、内部会議録や経理帳簿、経営事項審査書類などの企業秘密や営業ノウハウが含まれます。

しかし、特定の条件下ではこの守秘義務が免除される場合もあります。たとえば、本人の許諾や法令に基づく義務がある場合などです。ただし、特に個人情報に関しては、法律に基づく照会への対応は最小限に留めるべきです。情報公開や開示が行われる際には、個人や法人が同意している情報の提供は「正当な理由」とされます。この規定に違反すると、「親告罪」として罰せられる可能性があります。被害者が告訴する場合に限り、秘密情報が公開されることを避けるための措置が講じられています。

行政書士は、依頼人の信頼を守るために、業務上の秘密情報を厳守する責任を負っています。
この守秘義務は、法令を遵守し、依頼人の利益を最優先に考えるために重要な役割を果たしています。

最後に

今回は行政書士の法的義務について解説しました。
まだ法的義務は存在します。しかし、全てを解説すると軽く1万文字以上になりそうだったため、今回はこのくらいにしたいと思います。
あと1回くらいで全義務を解説できるかと思いますので、もう少しお付き合いください。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が行政書士の業務について学びたい方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
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