境界確定の合意があっても裁判で負ける?その理由とは?

境界確定の合意は境界を決定する上で重要なものとなります。
しかし、時として相手方が一方的に合意を反故にする事態も考えられます。
今回は、このような事態において境界確定の合意が裁判上でどのような立ち位置になるのかについて解説します。

事例

Aは郊外に土地を所有している。当該土地はAが父から相続したものである。
その土地については、父と隣接地を所有するYとの間で境界について合意が交わされていた。
ところが、 Yは土地の境界がAの土地 に入り込んでいると主張している。
AとYとは何度か交渉したが、 Yは頑として主張を譲らない。
事態の収束のため、AはYに対し境界確定訴訟を提起することにした。
Aは、Aの父とYの合意を裁判上の資料として使用することができるか?

回答:資料として使用はできるが、必ずしも有利になるとは限らない

土地や不動産を所有している方であれば、隣接する土地所有者との境界に関するトラブルについて悩んだことがあるかもしれません。
境界線の問題は、時に訴訟まで発展することがあります。この際、一般的には当事者同士の合意が大きな意味を持つと考えられがちです。
しかし、境界確定訴訟において、合意が裁判所を拘束しない場合があります。

境界確定訴訟の特殊性

境界確定訴訟は、所有権の範囲を確定するための訴訟ではありません。
その目的は、公法上の境界を確定することにあります。
そのため、裁判所は公法上の基準を基に判断を下すため、当事者同士の合意だけでは判決が下りません。

あくまで一資料としての合意

一方で、合意はあくまで境界確定訴訟における一資料となります。
裁判所はその事実を考慮することがあります。ですが、合意がすでに確定された境界の範囲を示すものとは限らず、訴訟の結果に直接的に影響を与えるわけではありません。

裁判所の立場と結論

最高裁判所は、すでに合意がある事案においても「合意だけで確定することは許されない」と判示しています。

境界確定については、上告人Aと被上告人らとの間に合意が成立したことのみに依拠していることが明らかである。しかし、相隣者間において境界を定めた事実があっても、これによってその一筆の土地の境界自体は変動しないものというべきである。したがって、右合意の事実を境界確定のための一資料にすることはもとより差し支えないが、これのみによって確定することは許されないものというべきである。

最高裁判例 昭和42年12月26日

このように、境界確定訴訟は公法上の境界を確定するものであるため、裁判所は当事者の主張に拘束されず自由に判断を下すことができます。

まとめ

このケースでは、合意の記録を裁判所が「一資料」として考慮するが、合意自体が境界の確定には必ずしも影響を与えないことが示されました。
境界確定訴訟は公法上の問題であり、裁判所は自由に判断を下すことができます。

では、合意書を作成しておくことが無意味でしょうか?
答えは「必ずしもそうとは言い切れない」です。
合意書は争いを和解に導く可能性があります。そのため、合意書を作成し、事前に境界の確定に関する合意を取り交わすことは依然として重要です。しかし、合意書の作成だけではなく、境界確定に関する合意が成立した場合でも、万一裁判に持ち込まれた場合は、最終的に裁判所が公法上の基準に基づいて判断を下すことを覚えておく必要があります。

最後に

今回は境界確定の合意の裁判上での地位について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が境界関係について学びたい方の参考になれば幸いです。

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